日英における警察ボランティアの比較研究
Exploring Synergies within Volunteering in Law Enforcement and Public Safety in the UK and Japan: Case for Support
※本研究は人文・社会科学分野における、日本との共同研究を推進しようとする日英研究協力グラント(ESRC-AHRC UK-Japan SSH Connections grants)を受けて行う。
プロジェクトメンバー
- プロジェクトリーダー
- マシュー・カレンダー(Dr Matthew Callender), ノーザンプトン大学上級研究員
- 共同研究者(日本側リーダー)
- 樋野公宏, 東京大学准教授
- 協力研究者
- ローラ・ナイト(Dr Laura Knight), ノーザンプトン大学刑事司法・公共安全研究所ディレクター
- イアン・ブリットン(Dr Iain Britton), 刑事司法・公共安全研究所, 市民による警察活動部門代表
- 雨宮護, 筑波大学准教授
研究の背景
- 本研究のねらいは、警察ボランティア分野における日英の研究者のパートナーシップ構築と、研究以外にもおよぶ連携基盤の形成にある。警察ボランティアは両国において喫緊の研究テーマであり、警察等の法執行機関がどのように自らの目標達成と市民の自衛力向上を目指すかについては、文化的文脈から考察する余地がある。
- 英国において、市民によるボランティアは、法執行機関の発展以前から警察活動を行ってきた (Britton and Callender, 2017)。特に特別警察隊 (Special Constabulary) は長い歴史的ルーツを持つ。特別警察隊は無償ボランティアでありながら、訓練を受け、通常の警察官と同様の権限を有する (Callender et al., 2018a)。しかし、ごく最近では、警察目的にかなう多様な市民ボランティアの機会が創出されている (Callender et al., 2018b)。調査によると、英国内では11,992人の特別警察隊、8,265人の警察支援ボランティア (Police Support Volunteer) を含む、38,000人以上の警察ボランティアが活動している (Britton et al., 2018)。さらに、警察と緊密に連携するボランティアが4万人以上存在すると推計されており、例えば、車両速度の監視活動 (Community Speedwatch)、近隣監視活動 (Neighbourhood Watch)、被害者支援活動、教会を基盤とする巡回活動 (street pastor) などの活動を行っている。
- 日本では、2003年「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(犯罪対策閣僚会議)が策定され、2014年までに4.8万団体、300万人の防犯ボランティアが活動している。この数字は成人の38人に1人に相当する(Hino, 2018)。防犯ボランティアの多くは、地域住民や小学校の保護者で構成され、警察からは独立しているものの、緊密な関係が求められている。防犯活動の裾野を広げるため、Hino (2018) は地域内での日常活動に防犯の視点を加える「プラス防犯」を提唱している。
- 警察ボランティアに関する日英関係構築の意義は以下の3点にある。第一に、両国における市民と警察の関係は大きく異なる。英国のボランティアは、前線での警察官同様の役割から、間接的に治安維持に資する近隣での活動まで多様である。一方、日本のボランティアは近隣での活動が中心であり、抑止や支援の役割を担う。今回の連携により、日本でも警察目的により直結するような新たな活動が生まれる可能性がある。第二に、両国における警察ボランティアの規模は大きく異なる。日本では防犯ボランティアの割合が極めて高く、前述の通り38人に1人が活動している計算となる。このことが日本の低犯罪率に寄与してきたと言える。一方の英国では、警察官と同等の権限を有するボランティアは国際的に見ても多いが、全人口に占める防犯ボランティアの割合は低い。今回の連携により、防犯分野における市民参加の特質が調査され、英国でも新たな市民参加やボランティア拡大のモデルを導入できる可能性がある。第三に、日英の学術界の関係強化により、警察ボランティアを研究対象とする研究者の世界的ネットワークを構築できる可能性がある。樋野准教授、雨宮准教授はオランダの研究者とも研究交流があり、Callender博士、Knight博士、Britton博士は米国、マレーシア、オーストラリアの研究者と協働実績がある。
- 本研究メンバーは、日英それぞれにおいて警察ボランティア研究の最前線に立ち、学術界や警察、ボランティア関連にもネットワークを有する。英国側の研究者は、イングランドおよびウェールズにおいて、警察ボランティアに関する学術研究の中心に位置付けられる。彼らが所属するIPSCJは内務省から約550,000ポンド(約8千万円)の研究費を受け、イングランドおよびウェールズにおける革新的な警察ボランティアに関する19のパイロット事業を評価している。日本側の樋野准教授、雨宮准教授は福岡県警犯罪抑止研究アドバイザーを務め、樋野准教授は日本都市計画学会で都市防犯研究会の代表も歴任した。このように、本研究メンバーの経験、専門性、知識は、両国のボランティアの戦略的かつ実務的発展に寄与しうる。
- 警察ボランティアは、市民の関与の程度は異なるものの、日英における活発な議論の対象である。本研究は、日英の連携を強め、新たな学術研究と政策形成に世界的なインパクトを与える可能性がある。そして、将来の研究連携と研究者育成の機会創出を目指す。
研究目的本研究の目的は、警察ボランティア分野における日英の研究者のパートナーシップを構築することである。具体的には、以下の4つの目標を掲げる。
- 日英の研究者間における研究および実務的知見の交流促進
- 学術および専門家のネットワークの構築
- イデオロギー、戦略、リーダーシップ、実務面における日英の警察ボランティアの比較
- 将来における研究連携機会の創出
実施計画研究と実務的知識の交換を可能にするため、本プロジェクトは1年間にわたって行われる。パートナーシップの形成段階で行われる活動は次のとおりである。
- 日英間の学術交流を目的とする2回の渡航
- 渡航中には、ホスト国の大学によって編成された、日英の研究者が参加する研究会、主な政策決定者や専門的な戦略リーダーへのインタビュー、知識交流のためのワークショプ、警察ボランティア活動の実地調査を実施する。
- 研究活動の紹介と知識共有のために、日英両国で知識交流のためのワークショップを開催する。このワークショップは、両国の相違点を特定し、シナジー効果を発揮させ、日英の警察ボランティア活動の比較研究論文に貢献する。また、ホスト国の研究者が研究方針の概要と、専門家の貢献によって支持された調査結果について説明する。このワークショップでは、特に、連携研究者の直接的ネットワークの内外において、研究者間により良い関係を築くための戦略づくりに焦点をあてる。
- 警察ボランティア活動に関する質的分析
- 日英で収集された質的データに基づき、警察ボランティア活動の性質を、イデオロギー、戦略、リーダーシップ、実践と関連付けて明らかにする。共同研究者の学術交流を目的とする渡航の間に分析ワークショップを実施し、学術誌や国際会議論文のためのエビデンスを構築する。
- 国際会議におけるシンポジウム開催
- パートナーシップの成果を公表するためのシンポジウムを開催する。主要な研究者の関心を集め、参加を呼び掛けるために電子メールで案内する。
- 地域コミュニティや警察への知識の普及
- プレゼンテーション資料や梗概の形でまとめられる日英両国でのローカルな活動は、知識の普及のために、地域コミュニティや警察に配布される。連携する組織や個人が、こうした素材の普及活動を支援する。
活動のスケジュール(2018年11月から2019年11月)
- 2018年11-12月
- プロジェクト開始。申請者らによるマネジメントグループ設立(以降、隔月で打ち合わせ)
- 学術交流のための渡航の旅程および詳細を検討(支援団体と調整)
- 2019年1-3月
- 日本側研究者の英国への渡航
- 2019年4-6月
- 英国側研究者の日本への渡航
- 2019年7-9月
- 国際会議におけるシンポジウムの開催
- 2019年10-11月
- 組織間で知識を共有するための活動
- 将来の共同資金調達の機会検討
主要な連携先本プロジェクトには、以下の組織および人々からの協力を得る予定である。
- 英国
- メアリー・ベイリー(Mary Bailey), 北ヨークシャー警察
- イアン・ミラー(Ian Miller), ロンドン市警察
- トム・ヘイ(Tom Haye), ハンプシャー特別警察管区
- エド・シェリー(Ed Sherry), National Volunteer Police Cadets(VPC: 警察により組成されるボランティア活動などを行う若者のグループ)
- 日本
- 島田貴仁(科学警察研究所犯罪行動科学部犯罪予防研究室長)
- 有馬隆文(佐賀大学芸術地域デザイン学部教授)
- 上杉昌也(福岡工業大学社会環境学部助教)
- 柴田建(大分大学理工学部准教授)
- 柴田久(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)
- 田中賢(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)
- 足立区危機管理部危機管理課
- 福岡県警察本部生活安全総務課
知識の普及
- 本プロジェクトのアウトプットには、学術誌に掲載される論文、セミナーや会議の梗概やプレゼンテーション資料、政策提言、将来の研究方針などが含まれる。すべての成果物は、IPSCJのウェブサイトの 専用ポータルからアクセス可能とし、プロジェクト参加者を通して、直接関係主体に届けられる。成果物は、日英の協働から生み出された知識を定着するための将来のさらなる連携のために、警察ボランティアの価値に焦点を合わせたものとなる。
- プロジェクトの成果物は、日英以外の警察ボランティア活動の研究者にとっても有益なものとなる。本プロジェクトは、警察活動、犯罪学、公共安全の分野におけるボランティア活動研究の位置づけを明確にし、それらの分野を拡大することに貢献するものである。